遊べる保育士
オヤジは、十八歳で小さいメガネ屋の経営者となり、昔からいい人材を集めるのにとても苦労してきたから、そういう仕組みが必要だと思っていたんです。
僕らは、もう、オヤジを信じ切っていましたから、オヤジに「ここにあるパイを、いま食べるのがいいか、もっと大きくして食べるのがいいか」つていわれて、「もっと大きくしてから」つて、なんの疑いもなく答えていました。
しかし、米国留学を経て社長の座に就いた二代目は、そういうオヤジの経営哲学を意に介さなかった。
それで、数百億円にパイが大きくなって、「いまから食べるぞ」つていうときになって、「この会社はあなたたちのものではない。
私か父から譲り受けた会社です」つて言い出したんですよ。
それで、専務を担ごうとする派閥が生まれたりして、内紛が絶えなくなりました。
オーナー一家のゴタゴタで、理想が潰えるのは本当に辛く、自ら行動を起こさざるを得なくなった。
当時、Hさんは、三十三歳の若さで、役員待遇だったとか。
Hそこがまた、オヤジのすごいところでね。
僕みたいに大学に行ってないような人間でも、実績をあげれば報いてくれた。
「ちゃんと筋の通ったことをいえ」といって育ててくれたし、社長にノーといえない奴は幹部にしないというポリシーだった。
だから、オヤジは分かってくれるだろうと。
それでYさんたちに声をかけられた。
Hはい。
僕は、世渡り上手なところがあるせいか、先に役員になれたけど、Yさんは大先輩でね、温厚で学歴があって頭がよく人望もあった。
だから、「僕は経営陣をまとめるから、Yさんは、労働組合をつくり、社員をまとめてくれませんか」とお願いした。
でもなかなか受けてもらえませんでした。
Y私もね、アルバイトから前の会社で働いて、オーナーの薫陶を直接受け、ずっと私淑してきたんですけど、やっぱり二代目になってからおかしくなったんですよね。
会社のためによかれと思って自分がやったことが、「謀反」のように捉えられたこともあり、「定年まで静かに過ごせればいい」と、気持ちも萎えてしまっていた。
そんななかでのお家騒動だったので、とにかくもう、ゴタゴタに巻きこまれたくないと静観していた。
でも、Hさんに「普段は後輩をかわいいといってるのに、こんな肝心なところで逃げたら男じゃない。
僕は絶対に裏切らないから、やってくれ」といわれてね。
「もう一度、やってみるか」と考え直しました。
H一度はね、社長交代に成功したんですよ。
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